5th International Conference on Intelligent Tutoring Systems

2000 年 6 月 19 日より 23 日までの日程で,第5回 Intelligent Tutoring Systems の国際会議 (ITS2000) がカナダ,モントリオール市の Universite de Quebec a Montreal において開催された.本会議は,知的教育支援システム (Intelligent Tutoring System: ITS) に関わる多様な研究テーマを扱った,最も規模の大きな国際会議の1つである.

今回,採録された論文のテーマは,ITS アーキテクチャ,教授および学習戦略,オーサリング・システム,学習環境,教授設計,認知理論,学習者のモデリング,分散学習環境,教授システムの評価,Web 上の訓練システム,知的エージェント,エージェントを用いた教授システムの開発,知的マルチメディアおよびハイパーメディア,インタフェース,遠隔教育の知的支援など(Proceedings の Preface より抜粋) 多岐にわたる.

この会議の歴史は,比較的浅い.第 1 回の会議は,1988 にモントリオール大学で開催された.その後,1992 年および 1996 年と,4 年に 1 回のペースで,同大学において開催されている.その後,会議に対する関心が高まる一方でこの規模の会議が他にないことなどから,2 年に 1 回の開催が検討され,1998年には,初めてカナダ以外の土地 -- テキサス州 San Antonio -- にて開催されている.今回は,その 2 年後の開催である.本会議は,同じく隔年で開催されている International Conference on Artificial Intelligence in Education (AIED) と毎年交互に開催されていることも特徴的である.結果的に,知的教育支援システムに関わる極めて専門性の高い 2 つの大きな国際会議が毎年開催されていることになる.

開催校の Quebec 大学は,モントリオールのほぼ中心に位置し,地下鉄の駅が構内に直結していた.大学の周辺は,観光地としての賑わいを見せており,ホテル,レストラン,土産屋などが密集していた.徒歩 10 分とかからない所に中華街があり,筆者は,殆ど毎日お昼は中華であった.

さて,今回の会議では,61 の full paper が口頭発表として採択されている.論文の採択率は 0.44 である.特筆すべきは,日本から 13 本の論文が投稿 (5本採択) されていることで,アメリカの25 本に続いて第 2 位である.カナダの 11 本,フランスおよびイギリスの 10 本がそれに続いている.2 年前の San Antonio では,日本からたったの 1 本しか採択されなかったことを思えば,大いに嬉しい話である.

Paper session に関して,少々手前味噌ではあるが,同点で選ばれた 3 つの best paper award の内の 2 つがいずれも Pittsburgh 市から選ばれている.Pittsburgh 大学 LRDC のR. C. Murray 他および Carnegie Mellon 大のV. Aleven 他である.

Full paper の他に,25 の学生発表 (Young Researchers Track: full paper の口頭発表セッションと平行して開催),そして 22 のポスターが発表された.さらに,"Prospects for Changing Educational Practice" というテーマの下に,2 つのパネルセッション (The Offer of Intelligent Tutoring Systems および The Demand for Intelligent Tutoring Systems) があった.ポスターは,初日の5:00pm から 8:00pm が割り当てられていた.残念ながら,6:00pm までは 1 つ目のパネルセッションが走っていたが,お客さんの入りは,まずまずであった.6:30pm からは welcome reception でカクテルが用意されるという追い風 (!?) を受けて,各ブースでの議論は白熱していたようである.

本会議に先行して,6/19 および 20 の両日は,7 つのワークショップ (Modelling Human Teaching Tactics and Strategies / Adaptive and Intelligent Web-Based Education Systems / Applying Machine Learning to ITS Design / Case-Based Reasoning in ITS / Collaborative Discovery Learning in the Context of Simulations / Learning Algebra with the Computer / Advanced Instructional Design for Complex Safety Critical & Emergency Training) と 2 つのチュートリアル (Ontological Engineering and its Implication for AIED research by R. Mizoguchi / Adaptive Web-Based Educational Systems by P. Brusilovsky) が開催された.

今回の会議で特筆に価するのは,招待講演であろう.3 日間の本会議中,毎日 2 つずつ,午前と午後に極めて魅力的なテーマの講演があった.中でも,Microsoft Research の Eric Horvitz は,(本人曰く)「1970 年代の "AI" 技術 (Bayesian network) を使ったユーザモデルを組み入れた,古くて新しい知的インタフェース」に関わる話をした.それは,まぎれもなく近い将来に Microsoft から発売されるであろうソフトウェアの宣伝であった!アプリケーションとユーザの中間に位置する知的エージェントがユーザのスケジュール管理などを代行するそうである.

本会議の Proceedings は,過去の会議も含めて,Springer から Lecture Notes in Computer Science として出版されている.

最後に,未だかつて,カナダで国際会議に参加したことが無い方のために,カナダで (「モントリオールで」と言うべきかも知れない) 開催される会議に参加する非学際的メリットをご紹介しよう.(1) 食事が美味しい.モントリオールは,フランス語圏なので,特にフランス料理が美味しい.アメリカの食事と比べると,感激するほど美味しい.(2) 物価が安い.食事,宿泊,ショッピングと,どれをとっても安い.会議中,家族を連れて,昼食にフランス料理のハーフコースを食べたが,たったの $15CAN であった.(3) 街が綺麗.繰り返しになるが,アメリカと比べると,感激するほど綺麗である.会議以外にも,十分に楽しむことの出来る都市である.

本会議の Web ページ. <URL:http://www.info.uqam.ca/its2000/>

松田 昇
ピッツバーグ大学
Intelligent Systems Program